店舗開発の矛盾する2つのミッション

今回は、チェーン企業における「売上予測を担当する人間」の条件について書きます。

しかし、その話をする前に、まず大きな前提として、
「ちゃんとした売上予測ができない企業によくあるしがらみ」
について、説明しておかなければなりません。

 

店舗開発担当者が売上予測をしてはいけない理由

立地調査をする担当者は、原則として、
店舗開発をする担当者とは分けた方が良い、
という話は、以前に書かせていただきました。

<参考>

 

この記事ではそこまで言及しませんでしたが、
企業において「立地調査をすること」とは、
すなわち、「売上予測をすること」です。

したがって、この記事にて書かれていることを言い換えると、

売上予測と店舗開発は別の担当者がするべき

ということと同義なのです。

 

店舗開発が抱える矛盾する2つのミッション

それはなぜかと言うと・・・・

ある程度の店舗数を展開しているチェーン企業の店舗開発担当者には、
矛盾する2つのミッション(社命)が与えられているからです。

 

ひとつは、「数多くの店を出すこと」

そしてもうひとつは、「売れる店・利益の出る店を出すこと」です。

 

この2つは、同じように見えるかもしれませんが、
まったく異なるものなのです。

しかし、経営陣が、これらが矛盾していることに気付かず、
店舗開発担当者に課してしまっている企業は数多くあります。

どういう部分が、いかに矛盾しているかは、
よくよくそのプロセスを分解していくと、分かります。

 

 

最優先されるべきポイントが正反対

これら2つのミッションの最大の違いは、

最優先されるべきポイント

です。

 

出店数を増やそうとする時の優先ポイント

「数多くの店を出せ」
というミッションでは、何よりも、
「出店の数とスピード」
が求められます。

その場合、店舗開発者がどんなことを考えるかというと・・・・

まず、「出店数」を最大に増やそうとするならば、
賃料や立地が条件であっても、
とにかく契約することを優先するようになるでしょう。

「賃料が高い」だの、「立地が悪い」だの、物件に難癖をつけていたら、
全然出店していくことができませんから、当然です。

しかし、そんなふうに出店していこうものなら、
採算の取れない店舗ばかりになってしまうことは、容易に想像できます。

 

また、「出店スピード」を速めようとするならば、
立地調査や売上予測をしなくなるでしょう。

当然ですが、調査や予測には、それなりの時間と労力が掛かります。
しっかり物件周辺を見て回らなければなりませんし、
統計データを収集する作業だけだって、場合によっては大変なものです。

私たちでさえ、1つの物件につき、どんなに急いでも、
調査と売上予測で「1日」は掛かります。

これでも、その物件だけに集中して、その他の仕事をしなかった場合です。
また、調査レポートを作成するような手間は含んでいません。

私たちのクライアント企業でも、どんなに熟練の人間がおこなったとしても、
やはり同じくらいの時間と労力が掛かっています。

となれば、出店スピードを速めるためには、
結果的に、立地や売上予測は後回しにされるわけですから、
不振店を多く出すことに繋がってきて然るべしなのです。

 

 

利益の取れるお店を出そうとする時の優先ポイント

一方で、売上や利益に重きをおくようになると、
今度はまったく反対の展開になるのです。

「利益を取れる店を出せ」
というミッションでは、
「売上予測の精度」
が求められるからです。

そこから、どういうことが起きるかといいますと・・・・

売れなかったり利益が出なかったりする場合を恐れるあまり、
そもそも、出店すること自体に臆病になってしまうのです。

 

立地調査も売上予測も、(やってみていただければ分かりますが)
「これだけやれば万全」というラインは、明確にはありません。

調べれば調べるほど、分析を深めれば深めるほど、
なかなか判断が難しくなってくるものなのです。

統計データや、実査の所感から、売上予測試算を出したとしても、

「本当にこの予測で正しいのか?
どこかに見落としがあるのではないか?」

という疑念を、100%消し去ることは到底できません。

どんなに精度の高い売上予測モデルでも、
どんなに経験を積んだ担当者でも、
予測を一切外さないなんてことは、有り得ません。

 

そして、売上予測をした人間がどんなに自信を持って稟議にかけても、
他の部署の誰か、または経営陣の誰かは、必ず、
「本当にこの予測通りいくのか?」
と疑ってくることになります。

そういった人たちは、調査報告書に書かれていないような、
売上予測モデルで勘案されていないような些細なことを、
重箱の隅をつつくように指摘してきます。

その結果、なかなか出店に踏み切れない、という事態が起こります。

そのようにして出店が滞るチェーン企業を、
私たちはいくつも見てきました。

 

店舗開発の矛盾する2つのミッション

 

立地調査・売上予測担当者のミッション

こうした、矛盾するミッションを抱えた店舗開発担当に対し、
立地調査・売上予測の担当者とは、
冷静に売上と利益を予測することがミッションです。

彼らがやることとは、

良い物件は良いと評価し、悪い物件は悪いと評価し、
楽観も悲観も無い、客観的な売上予測をすること

です。

たったこのことひとつだけであり、まったく矛盾していません。

ですから、売上と利益の予測を別の担当者が責任を持ってしてくれるならば、
店舗開発の担当者は、安心して本来の業務に専念することができるようになります。

すなわち、「数多くの物件を探してくること」です。

これが本来の店舗開発担当者が持つべきミッションなのです。
「利益の取れる店」かどうかは・・・・本当なら、直接的には関係がないのです。

 

店舗開発の担当者は、ある程度は立地や条件を度外視して、
とにかく情報量を稼ぎます。

勿論、まったく考えなくてもいいというわけではなく、
それなりに社内で基準は作っておくべきではあります。
(そのことについてはまた別の機会に詳しく書きます)

そして、見つけてきた物件の情報を売上予測担当者に預け、
彼らが調査・予測をしているうちに、別の物件を探しに出かけるのです。

こうしたことができると、以前書いた記事にもあったように、
出店精度が高まっていくのです。

<参考(再掲)>

 

補足:営業部のミッション

なお、上記の記事にもありますが、営業部や運営部の人達にとっては、
毎月の売上予算を達成していくことが、課せられたミッションです。

もし、過大な売上予算を作られてしまうと、
その達成は難しくなります。

ですので、本当に売れそうな物件以外は、
開店して欲しくないという思いがあります。

そのため、企業の中には、営業担当が、
店舗開発の担当者が見つけてくる候補物件にことごとく異論を唱えるため、
開発が円滑に進まない、という場合が多々あります。

そういう事態も、売上予測の担当者が彼らとは別に専任でいることで、
防ぐことができるのです。

 

 

 

売上予測担当者に求められる3大条件

それではいよいよ、本題です。

こういった仲裁的役割、ジャッジする役割を担うからには、
売上予測をする担当者というのは、
「誰でもなれる」というものではありません。

通常の社員に要求されるモラルや人間性は言うに及ばず、
次のように3つの重要な資格が必要になります。

 

①店長以上の経験があること

現場での運営経験があることは、必須となります。

現場の経験が無いと、実際の客層のイメージや、
運営状態のイメージがなかなかつきません。

 

極端なケースでは・・・・

現場を知らない人間が店舗の分析をしようとすると、
実際に訪れる客層には若者が多いということがあっても、
統計データ上で高齢者の方が相関性が高いと、
「高齢者が多い方が売上げが高いんだ!」と間違った分析をしてしまいます

 

また、立地上問題がないにも関わらず売上が改善せず、
不振店になってしまっているようなケースや、
反対に、難しい立地であるにも関わらず、
高い売上と利益を確保しているケースがあります。

この裏には、お店のQSCの問題が関わってきていたり、
店長の能力が高かったりという、
「立地以外の要因」が関わってきていることがあります。

しかし、現場を熟知していないと、
そうした「営業力要因」と「立地要因」とを分けて考えることができません

したがって、本来は店長のスキルが高くて売れているお店について、
「立地が良いから売れているのだ」と間違った見解をした上で分析をし、
新店の売上予測をすることになります。

実際に、
「この物件はA店と同等の立地だからA店と同じだけ売れます」
と、現場を知らない人間が売上予測をしたところ、結果は下回り、
後でそのことをよくよく調べていったら、
「A店は店長が新しくなってから売上げは30%アップした」
という事実があったことが分かりました。

こうしたことに気付いて分析ができるとできないとでは、
売上予測の精度が大違いなのです。

 

 

②年齢は40代までで考え方に柔軟性があること

立地をしっかり考え、売上予測ができるようになるには、
数字とパソコンを問題なく操れることと、柔軟な発想ができることが必要です。

常識的な考え方や過去の経験にばかり縛られて、
新しい発想が生まれてこなければ、
なかなか分析ができるようにはなりません。

未知のもの、新しいものに挑み、
切り拓いていこうとする気概と、
それができる思考の柔軟さが、
売上予測には、能力的に必要不可欠なのです。

 

重要なことは「柔軟な考え方ができる」ということであり、
40代までという年齢制限は、必須条件ではありませんが・・・・

様々な企業でコンサルティングをさせていただいている私たちの経験上、
50代以上になってしまうと、なかなか売上予測で成果を出せない人が多くいます。

まず、そもそも、
現場をどんどん実査して回るということが体力的に難しい
という場合も少なくありません。

その上、高度な分析の手法を覚えることも苦手とする方が多いですね。

 

こうしたことを鑑みると、実際問題、
40代までくらいが限界であろうと結論付けています。

事実、やはり高いスキルを持っていらっしゃるのは、
そうした年代の方々が多いですね。

会社でも経験を積み、かつ、体力と気力も十分にある人材は、
30代後半から40代前半くらいに多くいらっしゃいます。

 

 

 

③社長・経営幹部にも臆せず冷静に説明ができること

すなわち、度胸があること、です。

せっかく正しく立地を分析し、売上予測できたとしても、
それだけで終わりではありません。

社長や経営幹部はもちろん、
店舗開発部や営業部などの関連部署の方々に、
納得してもらわなければなりません。

ただ数字だけ見せ、「こういう結果が出ました」だけでは、
ほとんどの人は決して納得しません。
「なぜそんな予測になるんだ」と、必ず聞かれることでしょう。

とりわけ、店舗開発部や営業部の人間は、
彼らそれぞれも独自の立地への見解を持っていますから、
それと相違があれば、突っ込まないではいられません。

社長や経営幹部に至っては、その売上予測が、
出店を、ひいては会社の未来を左右するのですから、
なおさら、生半可な話では納得できないでしょう。

ですから、きちんとその理由、背景を説明し、
心から納得してもらわなければなりません。

 

しかし・・・・自身の上役に意見を表明するのは、
とても勇気と胆力の要ることです。

昔から、「結局は声が大きい人が勝つ」と言われしまうこともありますが、
そういう状態では、いつまでもチェーンが育っていきません。

時には、仮に社長がNGを出した物件でも、
その社長を説得して出店に持っていくことが、
チェーンの利益を考えれば重要なこともあります。

社長に「逆らう」わけではありません。
チェーン全体の大きな利益を考えたら、
何を取るのが最善なのか、自身の意見を持って、
しっかり社長に伝えられることが大切なのです。

 

こうしたことは、表面的には、
売上予測の精度(=分析スキルの高さ)に関係ないと思えるかもしれません。

しかし、結局のところ、組織とは人間関係で成り立っています。
意志が弱かったり、頼りなかったりする人間の言葉は、
その内容がどんなものであれ、周りが聞く耳を持つことは難しいものです。

担当者が、正しさを貫ける気概、「胆力」を持っていることが、
組織として「正しい売上予測」をすることに直結するのです。

 

 

 

 

3つの条件に当てはまる人材がいない場合

以上が、チェーン展開していく上で、
きわめて重要な売上予測を任せるに値する人材の、
外せない3つの条件です。

 

しかしながら・・・・

これら3つの条件を兼ね備えた人材は、
なかなか見つかるものではない、という声も耳にします。

確かに、人手不足、人材不足も嘆かれるショップビジネス業界では、
そういった悩みは当然多くの企業が持っているでしょう。

 

ではその場合はどうするか、というと・・・・

若い社員と年配の上司で分担するように、
タッグを組んでもらうことです。

 

上記の3つの条件は、できれば1人1人が持ち得ていることが望ましいものですが、
それが難しいというのであれば、
「売上予測部門のメンバー全員で3つを満たしている」
ということでも、構わないのです。

 

例えば、分析を含むパソコン作業や、体力を使う実査などに関しては、
全面的に若手の担当者に頑張ってもらいましょう。

一方で、幹部向けのプレゼンについては年配の社員がメインになります。
往々にして組織では、年配の社員の方が発言権が大きいこともありますから。

こうしたチームプレイが成り立つのであれば、
次善策として、それでも十分、機能すると思われます。

 

 

 

売上予測の専任担当者を作れるかどうかがチェーン展開の鍵を握る

チェーンが店舗を増やしていくにあたり、
正しい立地調査、つまり高精度な売上予測は、
絶対に避けては通れない関門です。

起業の最初の頃は、社長自ら立地を見ていけば済むでしょう。
社長は、失敗の責任を取れる唯一の存在ですから、
店舗数が少ないうちは、それでも構いません。

しかし、社長だって身ひとつの人間です。
出店ペースが速くなっていけば、とても、
全部の物件を自分で判断することなんて、できません。

そうした時、社長以外に、
しっかり立地を見ることができる人材が、
企業の中に育っているかどうか。

そのことが、企業の成長を大きく左右することになるのです。

 

いつまでも、社長自らが開発していたり、
店舗開発部が立地を調査している企業は、
一皮むけることがなかなかできません。

しっかり、正しい知識と技術を持った、
売上予測専任者を、早めに育てておくようにしましょう。

それが、盤石な多店舗展開のカギとなります。

 

 

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